松尾ゆり

わくわくレポート132号 2010年8月

新区長就任で杉並はどう変わる?

 7月11日参議院選挙が行われ、民主党が大敗しました。政権交代からまだ1年経っていませんが、政治とカネの問題や普天間基地問題など、この間の鳩山政権の無責任ぶりに国民がうんざりした結果でしょう。自民党と「みんなの党」が大幅に議席を増やしましたが、両党も民主ばなれの受け皿になっただけで、積極的に選ばれたとは言えません。幅広い国民の運動に基盤をおいた政党、政治勢力が求められています。

 さて、参院選と同時に投票が行われた杉並区長選挙は翌日開票が行われ、新しい区長に前都議会議長の田中良さんが当選しました。

 11年あまり続いた山田区政に終わりを告げた杉並区役所は、トップダウンで反論を許されない暗い体制から解き放たれ、雰囲気が一変しました。職員さんたちが笑顔で働いている様子にこちらもほっとします。  田中区政が本格的に動き始めるのはこれから。まだ、どのような区政になっていくかはわかりません。言えることは、区長が変わったからといって、区政が良くなるとは限らない、ということです。

 区政の政権交代の今こそ、区民のさまざまな運動を積極的に進めて、区政の中身を本当に転換させていきたいと思います。皆様とごいっしょにがんばって参ります。

「わたしたちがめざす新しい杉並区政」 について

 杉並わくわく会議は、今回の区長選に候補者を擁立・推薦しませんでしたが、区長選にあたって「めざす区政」のすがたをまとめました(全文は「杉並わくわく会議」ホームページに掲載しています)。

 福祉や環境、労働運動など、区内の様々な分野で運動し、活躍しておられる方々のご協力をあおぎ、学習と討論の会を重ねて、共同で作り上げたものです。

 「私たちの候補者がいるとするなら、こんなマニフェストをかかげてほしい」という気持ちで作りました。ですから内容は、できるだけ区政の全体像に迫ることを追求し、かつ幅広い区民が共感できるものをと工夫したつもりです。ぜひご一読ください。これらの政策が実現されるよう、区民の皆様とともにいっそう運動を強めていきたいと思います。


これからの焦点
増税? そして福祉はどこへ?


消費税 <引き上げるしかない、なんてことはない>

 参議院選挙でも大きな焦点になった「消費税10%」。
 「国の借金が900兆円!」「国民一人当たり700万円の借金!」などと言われると「早く返さなきゃ!」と思ってしまうのが人情。でも、本当にそうなのかな?

●消費税は公平?

 収入の多い人は消費ばかりでなく投資も行うので、消費税負担は相対的に低くなります。収入に占める消費税支払いの割合は年収300万円の人で約3%、1000万の人では約2%。「逆進的」と言われるゆえんです。

●法人税は高すぎる?

 法人実効税率は約40%、諸外国に比べ高すぎる!との大合唱。しかし、子会社との連結納税制度や研究開発減税など優遇措置を利用しているトヨタなどの大企業では、税負担率は実質30%程度。1億円プレーヤー続出の大手銀行やゴーン社長に9億円払っている日産は、もうかっていても法人税を納めていない!という実態もあります。ちゃんと払ってもらいましょう。

●国家財政の危機!?

 たしかに900兆円の借金はハンパではありませんが、国には負債と同じくらいの資産もあります。今すぐ倒産する!というわけではありません。誰のための国家財政か、誰が払うべきかを考え直すことこそ大切です。


保育 <「新システム」は介護保険の二の舞に>
足りない保育園、増え続ける「待機児童」!

 保育は杉並区政でも最も重大な緊急課題の1つといっても過言ではありません。杉並に限らず、都市部はどこでも、保育園に入れず親子が泣いています。

 それに対して、いま民主党政府が考えていることを見ると……。まず、保育園の規制緩和。施設や人員の「最低基準」を地域によって変えてもよいとするもので、特に都市部では保育室の面積が狭くてもよいとされ「詰め込み」になる恐れが大です。

 さらに、6月には政府の「子ども・子育て新システム検討会議」が報告を出しました。その内容は、
・幼稚園と保育所を「こども園」に統一(幼保一元化)
・「こども園」は、指定を受けた事業者が運営。利用者が自分で事業者を選び、直接契約する仕組みに
・子ども手当や保育の財源を一元化などです。

 「直接契約」制度が導入されれば、すべての保育園が「認証保育園」のような契約関係になります。これらは、20年も前から、財界がずうっと切望してきたこと。ひとことで言えば、保育の「市場化」です。

 「直接契約は利用者がサービスを選べる」と言いますが、介護保険導入時も「利用者が選べる」がうたい文句でした。しかし、その後の実態は見ての通りです。

 この「新システム」では保育が介護保険の二の舞になることは目に見えています。親たちが必死に求めている「安心して預けられる保育園」からは遠のいていくばかりの厚労省。今後がとても心配です。この秋「杉並わくわく会議」と松尾ゆりは、税と福祉のあり方を考え、行動していきます!


「ワーキングプアを作らない!」
~野田市「公契約条例」を視察しました

 先日、区議会の1期生(当選1回の人たち)で野田市の視察に行きました。野田市はキッコーマンで知られるお醤油の名産地。利根川水運で古くから栄えた千葉県の西端のまちです。

 野田市は昨年全国で初めて「公契約条例」を制定しました。全国から注目を浴び、視察に訪れる人が毎日とぎれないそうです。

 野田市長は「官製ワーキングプアをつくらないために」という強い意思をもち、低賃金労働にならないよう市の契約を条例で規制する「公契約条例」をつくりました。労働組合や建設業界から悲鳴が上がっていたからです。

 条例では、市の高卒職員初任給などをめやすに賃金基準をもうけ、その結果、今年の入札では、清掃業務などの低賃金の仕事で千葉県の最低賃金を時給で100円以上上まわる効果がありました。しかし、他の職種で、すでに900円、1000円と払っている場合には賃金引き上げ効果がなく、職種別の賃金設定が今後の課題だそうです。

 「賃金や契約単価の引き上げは本来国の仕事。国が動かないから自治体でできることをやっているが限界がある。他の自治体もどんどん公契約条例を作ってほしい。そしていっしょに国を動かしましょう」というのが、担当の方のメッセージでした。

 杉並区では昨年、セシオン杉並などの委託先企業が倒産し、賃金未払い事件が起こりました。行政の契約は「安ければいい」というだけではすみません。適正な賃金、労働条件を確保するための契約額は引き下げるにも、おのずから限度があるべきです。民間委託のあり方も見直さなくてはなりません。そして、杉並区でもぜひ「公契約条例」を実現させたいものです。


え?民主党と自民党が「合体」!?
~あきれた「大連立」

 全くあきれたことに、杉並区議会では民主党と自民党(の一部※)などが一緒になった新しい会派が7月21日に結成されました。国政では対立しているはず、まして杉並区では、つい10日前まで区長選で田中候補(新区長)と対立候補の2つの陣営に分かれて激しく争っていた同士のはずなのに、選挙が終わった途端、1つの会派に合流してしまうなんて、どういうこと?

 この会派の名前は「新しい杉並」。さすがに「民主・自民区議団」などとは恥ずかしくて名乗れないらしく、何党なのかわからない名前になっています。

 街に一斉に張り出された自民党議員のポスターには「新しい杉並 始動!」と大書、まるで「田中区長になってよかった」と言わんばかりだけど、おいおい、あんた方は対立候補を応援していたのでは?「どうせ区民は区議会のことなんか何も知らないのだから、黙っていればわからない」とでも?

 新聞にも「杉並区議会、大連立の怪」と大きく取り上げられました。記事によれば「議員報酬引き上げが会派合流の目的」との説まであるそうです。

 区民の皆様には、来春の区議会議員選挙まで、このあきれた大連立に参加した議員をよく覚えておいていただきたいと思います。

(※新会派には民主党から5名、自民党から8名、社民党から1名、無所属から3名が参加。民主党のうち1名、自民党のうち6名はそれぞれ区議団を維持)