松尾ゆり
わくわくの日々

科学館閉鎖、代わりの事業は大幅に削減

●2015-06-16

昨年度末(2015年3月)をもって科学館はその活動を停止、4月からは科学館を継承したと称する事業が開始されました。しかし、質量ともに全く不十分、科学館で行われていた事業とは全く別なものです。8日の区議会文教委員会の質疑の中でも、新しい事業の、あまりにもお寒い実態が明らかになりました。

(●は文教委員会における区の説明。○は補足情報と解説)

(1)学校の移動教室

●済美教育センターから学校への「出前授業」に変更。

●前提として、理科室の整備により、学校でできるものについては学校で行う。したがって、出前授業で行う内容は解剖実験やものづくりなど専門的なものに特化して実施することとした。

●具体的には小3~小6、中1、中2を対象として、総体として学習指導要領に基づき理科の学びの充実をはかっている。

○「専門的なもの」といいながら、逆にレベルは落ちている。小3、小5のおもちゃ作りは学校の先生で十分。3年の工作は実に簡単で、指導に専門性などいらない。

○5年生はこれまで科学館でしかできない「流水実験」を行ってきた。5mの本格的な流水実験場は学校の要望の高いもの。ところが、今後は長さ60センチのプランターで水を流し、録画したものを見せ合うだけのものになる。小学校の先生たちは科学館がなくなると知って、最初のひとことが「流水実験ができなくなる!」

○小学校は理科室が1つしかなく、2クラス実施の場合は家庭科室を使うというが、小学校の家庭科は生もの禁止。コイの解剖をするのはまずい。

○科学館は教育指導要領にのっとた「教科書レベル以上」のことをやれるから評価されているのに、教科書レベルを出ないものにレベルが下がった。教科書レベルのことなら学校の先生が教えればよく、専門の指導員の必要はない。

○「身近な地域に指導員が出向く」というが、科学館でも講師派遣、出張指導がなされており、その利用者は1800名。

(2)移動教室と出前授業のメニューの違い

●今年度は各学年1つのメニューに決まっているが、これらの内容は、これまでの移動教室において、多くの学校が選択してきたものでもあり、学校のニーズも活かしている。

○これまでは、数種類のプログラムから学校の必要に応じて選ぶことができた。しかし、今年度は(1)のように、学校でできる簡単なものだけ、しかも選べなくなってしまった。選べないということは、同じ教科書を使っているのだから、同じ単元は同じ時期に集中し、出前授業を担う職員の負担となる。

●これまでの指導員のみの体制から、学校の理科担当教員との協働による指導体制となっている。

○これまでの科学館こそが理科の教員との協働だった。研修や授業のプログラムは科学館の職員と学校の先生の協働で作り上げたものだった。しかし、出前授業に忙しい職員は教員との共同研究の余裕はない。せっかくの専門知識をもつ指導員も、出前授業のための運搬作業員となっている。

○先生方にとっては、これまでの科学館での実験は、専門家のもとでのよい勉強であったが、それがなくなったことは今後の杉並の理科教

育のレベルに大きく影響する。

○プラネタリウムは解説が大事。プラネタリウムの専門事業者でも解説に差がある。天文のような専門性の高いものを学校の先生に解説させるなら、レベルの低下以外の何物でもない。

●年間581コマ実施する。

○この回数はおおむねクラス数に等しい。実際は2クラス同時の学校も多いが、科学館は実験室が3つあり、3クラス同時まで対応できた。回数が多くなって充実したのではなく効率が悪くなっている。また、小学校では理科室が1つしかないためか、今年は2クラス合同で実施という学校もある。

(3)移動プラネタリウム

●昨年の投影回数は小1~中3までの希望校200回。今年は希望制でなく学習指導要領に照らして必要な学年、天文分野を学んでいる小4、小6、中3の全学級に約290回実施していく。各学級の子どもの実態に合わせたよりきめ細かな指導が図られている。

○学習する学年が減ったのに回数が増えたのは(2)と同じく効率の悪さを示している。科学館のプラネタリウムは定員140名で1学年についてほぼ1回で済んだが、移動プラネタリウムは一度に1クラスしか見られないため学級数分の授業を行うことになるため290回。指導員にとっても負担は大きい。

○きまった3つの学年だけに一律に実施するのだから「実態にあわせたきめ細かな」指導とはいえない。

●ある区議会議員のブログで、移動プラネタリウムでイスが悪く、肩や首へ負担がかかると指摘されている。イスについてもよりよい物へ検討しているところ。

○科学館の本当のプラネタリウムとバルーンの中に投影する移動プラネタリウムは、大きさも内容も全く違うもの。イベントのお楽しみにはいいかもしれないが、学習を深めることは無理。

○体育館などで実施するため、イスはお風呂のプラスチックイス。科学館のプラネタリウムは楽に上を見上げることができるリクライニング設計。

○5mのドームでは首を上げなければいけない。会場はバリアフリーでも、移動プラは高齢者には向かないし、子どもも含め短時間しか無理。

(4)生涯学習分野について

●平成26年度は約180回。27年度もほぼ同規模の162回を予定している。プラネタリウムはじめ、より身近な区民センター等へ出向いて行う。

○平成25年度は約200回(昨年度はすでに「廃止」にむけ回数が減ったものか?)、これと比べて2割減としても同規模とはいえない。また、回数には移動プラネタリウムの投影回数84回(1日でも3回なら3とカウント)、春夏休みの科学博覧会を28回(28日)としてカウントしたものが含まれているので、内容のわりに膨らんだカウントになっている。博覧会展示期間を日数でカウントするなら、科学館の常設展示は300回?

○生涯学習のうち、小中学生の希望者が参加する科学教室は日数でカウントされているが、(5)のように開催回数でカウントすれば科学館はもっと多くなる。(今年度:のべ日数20日、25年度:のべ日数104日)

(5)小中学校児童生徒むけ科学教室

●夏休み科学教室は中学生のフューチャー・サイエンス・クラブとして企業等の協力を得て実施する。未来の科学を体験しながら学ぶことができるよう、内容の充実を図りながら実施していく。

○今年度実施のフューチャー・サイエンス・クラブは2コース(4回)×30人で120人定員、5日間。のべ人数600人(定員)。

○科学館の科学教室(平成25年度実績)は
小学生(全期) 7回×2学年=14回 延べ受講人数1191人
小学生(夏休み) 6日×5分野=30日 358人
中学生(全期) 6回×5分野=30回 428人
中学生(夏休み) 6日×5分野=30日 245人
であり、回数も、受講人数も全く違う。しかも、分野ごと(化学、地質、天文、生物、物理)に6日間かけて学習を深めていくもの。今年予定されているフューチャー・サイエンス・クラブは企業などに依頼して日替わりでいろいろな学習をするものであり、楽しいかもしれないが、じっくりと身に付く学習にはならないだろう。

▼補足:文科省学習指導要領では

「学習指導要領に準拠して」というが、次のことを杉並区はどう考えているのか。

◎学習指導要領(小学校 理科)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/ri.htm

・目標「自然に親しみ,見通しをもって観察,実験などを行い,問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う」
。指導計画の作成と内容の取扱い「個々の児童が主体的に問題解決活動を進めるとともに,学習の成果と日常生活との関連を図り、自然の事物・現象について実感を伴って理解できるようにすること。」
どちらも、「実感を伴う」ことを強調している。また、「博物館や科学学習センターなどと連携、協力を図りながら、それらを積極的に活用するよう配慮すること」とも書かれている。
杉並では、地学事象のシミュレーション(流水実験)、天体事象のシミュレーション(プラネタリウム)では実感を伴ったものから遠ざかる。

◎文部省のアンケート「学校教育と連携した科学館等での理科学習が児童生徒へ 及ぼす影響について―学校と科学館等の連携強化の重要性」
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat107j/pdf/mat107j.pdf

科学館のある自治体のある子どもは理科好きという結果。

◎「科学館・博物館の特色ある取組みに関する調査」
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat141j/pdf/mat141j.pdf
科学的リテラシーのために大人が科学館を利用することが必要と強調。

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