松尾ゆり
わくわくの日々

「待機児童ゼロ」の意味とスケープゴートにされた公園
(決算認定に反対する意見)

●2016-10-15

 2015年度の各決算審査を終了するにあたり意見を述べました。保育園のこと、児童館のことを詳しく述べています。保育園の「待機児童ゼロ」という目標は2200人もの「かくれ待機児童」を擁する杉並区において意味あることなのか。区長のPRのため公園は廃止され、スケープゴートにされたと指摘されました。(以下は原稿で、実際の発言とは違う部分もあります)

 杉並わくわく会議として、認定第1号平成27年度杉並区一般会計歳入歳出決算ほか4件の認定に反対の立場から以下意見を述べます。当該平成27年度は、前年に策定された施設再編整備計画のもと、児童館の再編、あんさんぶる荻窪と税務署等との財産交換、学校跡地利用などの計画が本格的に稼働した年でした。

★ 事業の都合より建築・解体の都合優先

 科学館は年度末に完全に廃止され、現在は解体作業が行われています。あんさんぶる荻窪については、天沼3丁目複合施設建設の具体化、桃二小改築計画策定などが行われ、区議会で交換についての議決が行われました。もちろん、まだ交換契約が定まったわけではありません。昨年地元町会からは2カ所、あんさんぶる交換と桃二小建て替えに関する要望書を取り下げる文書が提出されました。最近これにもうお一人の町会長が加わりました。

 荻窪税務署隣地には全国でももう1カ所しかないという太宰治の旧居、碧雲荘があり保存したいという住民運動がありましたが、区はこの貴重な文化財が九州へと譲られていくのをみすみす手をこまぬいて見逃しました。杉並区は観光に力をいれますなどといっても、こんなことでは空虚に響きます。

 児童館の再編についても、和泉学園の学童保育棟建設、放課後等居場所事業のモデル事業等が行われました。こうした経緯をみるにつけ、きわめて問題に思うことは、建物の都合ですべての事業が振り回されていることです。本当は、福祉にしても教育にしても、それぞれの必要に応じてうつわを決めるべきですが、今の杉並区は逆です。行政サービスのスケジュールではなく、壊したり建てたりするスケジュールが優先される。これはすなわち、壊したり建てたりする事業者のほうの都合で決められているのかと考えてしまいます。

★ 区民に意見を出してほしくない?

 今回の施設再編整備計画改定案において、過日パブリックコメントと説明会が実施されましたが、身近な施設に関わる計画であるにも関わらず、周知は不十分でした。率直に言って、区民に意見を出してもらいたくないのかと思われる状況です。広報臨時号は難しく、しかも肝心な具体的な情報、戸別の児童館、図書館などの名前もありません。ホームページはトップページを一見してパブコメが行われていることがわかりません。しかも、改定案はまるで隠してあるかのように、4回も5回もページを開かないと読むことができません。この改定案を読んだ人はきわめて少ないと思います。よほど杉並区政に詳しい人ではないでしょうか。自治基本条例もパブコメ条例も空文化しています。今後の取組は徹底して見直すよう求めます。

★ 保育緊急対策のスケープゴート

 さて、質疑の中では、保育の緊急対策に多くの時間を割かざるをえませんでした。今の区政の本質的な問題点がそこにはあるからです。今年度に入って間もない4月に突然区長が「保育緊急事態宣言」を打ち出したことによって、区内なかでも久我山と井草の地域は大混乱に陥りました。子どもたちが一番好きで一番多く使っている公園をつぶして保育園にするという計画について、区長はじめ区役所は「ほかに用地がなかった」といういいわけをしましたが、このかん指摘してきたように用地はほかにあり、わざわざ最も使われている公園を犠牲にする理由はどこにもありません。「杉並区はこんなことまでして頑張っている」という広告塔、スケープゴートにされてしまいました。

 区長および一部区の幹部のかたがたは、もしかして区政は区長と区役所のものだと思っているのかもしれませんが、区政は住民のものです。区民は区政の主権者であり、また、税金を払って費用を負担している区政のオーナーでもあります。釈迦に説法かもしれませんが、偉い方ほど、日々そのことを忘れずに住民と向き合っていただきたいと考えます。

★ 23区だんとつ1位の「かくれ待機児童」

 当該27年度の保育施設整備が不十分だったことを指摘する意見もありました。全くそのとおりです。また、それ以前にそもそも「待機児をゼロにする」計画自体が妥当なものかを問い直す必要があります。私の手元に9月3日付東京新聞があります。「潜在的待機児童」=かくれ待機児童について報じたものです。これによると、今年4月1日時点の杉並区のいわゆる待機児童は136人に対して「かくれ待機児童」が2152人に上ったことが指摘されています。23区ではだんとつの1位。全国でも4番目です。いわゆる待機児童との合計では2288人となり、世田谷区の2389人に肉薄しています。この2152人のうち1638人は認証保育園や区の保育室など認可外施設に入所している子どもたちです。これら「かくれ待機児童」のほとんどは保護者が認可保育園への入所を希望していると考えられます。

★ 「認可でなくてはだめ」なのでは?

 杉並区は今年「保育緊急事態宣言」を発したとたん、突如「認可でなくてはだめなんです」と叫び始めました。この声を10年前、あるいは田中区長が着任した6年前にでも上げていれば、今日のこの惨状はなかったと思いますが、それはともかく、「認可でなくてはだめなんです」と言いながら、認可外の利用者は相変わらず待機児童にカウントせず除外しているのは矛盾しているのではないでしょうか。

 杉並区の言っている「待機児童ゼロ」はあくまでも現在の区の基準によるゼロであって、児童福祉法第24条にうたわれている、国の最低基準を満たした認可「保育所に入所させる義務」があるというところからはずれている、本当の待機児童2300に対する区の義務を履行するものとはなっていません。そもそも待機児童は今年いきなり増えたわけではなく、しかも、背後にはずっと、膨大な「かくれ待機児童」が存在しています。しかも、増え続けています。

★ 「待機児童ゼロ」は形だけの数字

 ちなみに、この東京新聞の記事では待機児童の定義を変更する考え方に対して杉並区の職員が「独自の政策はやめろということになる」と答えています。区保育室などが待機児童にカウントされることにご不満のようです。このコメントは、向井公園や久我山東原公園の説明会で区が繰り返してきた「認可でなければだめなんです」という言葉とはまっこうから食い違っているものではないでしょうか。

 現在の状況からすれば、来春の待機児童ゼロは不可能なものではないでしょう。しかし、それは問題の解決ではありません。その裏に2000人以上の、もしかしたら来年はもっと増えるかもしれない「かくれ待機児童」が存在する限り、いくら「待機児童ゼロ」と言いはってみても、結局は形だけの数字にすぎません。その数字のために、その保育園の子どもたちも使うはずだった公園をつぶしたことはとりかえしがつきません。その失政の責任は誰が負うのでしょうか。

★ 認可保育園ならなんでもいいわけではない

 さらに、認可保育園といっても、その内情はいろいろです。近年は国の補助金による誘導もあり、株式会社など民間の事業者による保育園が雨後の竹の子のように増えています。 これまで実績のある社会福祉法人の園もなくはないですが、数に限りがあり、保育事業に参入して1、2年といった異業種の会社も多くなっています。区が「認可でなければだめなんです」という認可の中には、こうした経験の浅い事業者も含まれています。多額の公費を投入して、あまつさえ、区内の貴重な公園を提供してまで誘致すべき企業なのか大変疑問です。

★ 上井草保育園保護者から民営化反対の声

 他方で、区立保育園の民営化、指定管理化にも大きな問題があります。先日突然民営化を知らされた上井草保育園の保護者からは、反対の声が上がっています。

★ 保育事業者選定の公平性、透明性

 質疑の中では保育事業者のプロポーザル選定委員会について但し、選定委員氏名の事後公表について一定の改善が図られたことは評価します。民営保育園が急増する中、選定の公平性、透明性確保にいっそうの努力を求めます。

★ 児童館「廃止」の方針が明確に

 質疑の中では、児童館についても検討しました。児童館の再編については「廃止」という言葉を避けて「継承・発展・拡充」と言っている区ですが、質疑の中で、施設としての児童館はいずれ廃止されるという区の方針が改めて明確になりました。また、児童館本来の機能、役割は、施設としての館の存在そのものと不可分であることも明らかにしました。

 公園が廃止され、公園に代わる子どもたちの居場所としても児童館は欠かせません。いま大量に入園している保育園の子どもたちが卒園したあとの学童クラブも児童館で行われています。そのキャパシティを考えても児童館を廃止するわけにはいきません。児童館の再編については抜本的に再考するようあらためて求めます。

 時間がなくて質疑の中で十分述べることができなかったテーマは、産業政策なかでもプレミアム商品券の復活について、また、ふれあいの家に対する区の支援と関与の継続、国保年金課などの業務委託問題、図書館の再編など、多々ありますが、今後あらためて議論の機会をみつけたいと思います。

★ 区政における民主主義。真実を消すことはできない

 さて、委員会の中で私の質疑を引用して発言された他の委員がありました。引用していただくことは大変光栄なのですが、同じ素材から全く正反対の結論が導かれたようでしたので、ここで誤解を正しておきたいと思います。

 そのひとつは、私が本会議一般質問において「区政における民主主義の問題」として指摘した、一部の区職員の問題ある行動。そのなかで区長の発言、職員の自作自演行為、監視カメラ、および向井公園近隣説明会の妨害などについての質問です。これに対して全面否定の答弁がありましたが、それに対しては先に、「真実を消すことはできない」ということを指摘したところです。

 なお、本会議で私はこのほかに、反対住民宅を刑事が訪れた件、また担当課長が説明会当日に住民を訪ね「民主主義の否定だ」と述べた件、中高年の住民が大勢来ることを知っていて教育委員会カウンター前のベンチを撤去した件などを指摘しましたが、これらについては特段否定されなかったので区側も事実を認めて反省されているものと理解します。

★ 区民センター利用率の低下に誤解うむ答弁

 次に別の委員からも、私の質疑に関連して区民センターの利用率について重ねての質問がありましたので、再度数字を確認しておきます。平成25年度と直近の利用率の変化です。

 井草地域区民センター 午前54.7%から40.3% 夜間31.7%から19.5%
 西荻地域区民センター 午前59.1%から50.2% 夜間45.5%から30.2%

 他のセンターもすべて利用率が10ポイント前後下がっています。昼の時間帯はもっと悲惨なので、あえて取り上げなかったのですが、誤解をまねく答弁があったので、ここで確認しておきます。

 井草地域区民センター 25年度52.0%から今年度午後1:38.6%、午後2:26.9%
 西荻地域区民センター 25年度66.4%から今年度午後1:54.4%、午後2:34.6%

 どちらも「午後2」に至っては半分近くまで落ちているわけです。他のセンターもすべて落ちています。「回数が増えています」という答弁でしたが、コマを2つにわければ回数はふえるに決まっていて、単純に2倍になって当然ですが、そうなっていないことは利用率を見れば一目瞭然です。

 利用率が下がった理由については、私は利用料の2度の値上げが大きいと思いますが、そこは分析していただけばいいし、見解はいろいろあっていいでしょう。しかし、数字に表れている厳粛な結果はごまかさずに真摯に受け止めていただかなくてはなりません。なにごとも事実にもとづいて議論が行われなければならず、私たち議員としても最も気を配らなければならないところでしょう。

 以上をもちまして決算認定に対する意見とします。最後になりましたが、委員会の審議にあたり、職員の皆様には多数の資料を調整していただき、また多くのご教示をいただきました。心より御礼申し上げます。

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